獣から肉へ

獣から肉へ

2020年4月25日
考えること。

「希望する人にはお肉を送ります」という記事を先日投稿し、
今回は送る用のお肉を授けてくれた牡鹿の解体の様子を紹介しようと思う。

以前から隣村の友人に、「欲しいという人にお肉を送りたい」という話はしていて、
その日はこれから仕掛ける罠の下見に行く予定だった。

予定通り、罠の下見をスタートしたのだけど、開始早々、林道を走る前を走る友人の軽トラが停まる。
良さげな獣道があったのかなと思って前方を見やると、左手の山の斜面に牡鹿がいた。

どうやら、友人が前から仕掛けていた罠に掛かっていたらしい。

ソロッポの牡鹿だった。じーっとこちらを見つめている。

罠を仕掛けようと思った矢先の棚ぼたな出来事。

前脚にしっかり掛かっていて、ワイヤーが絡まり身動きができない状態になっていたので、
剣鉈だけで止め刺しできそうだ。

と、その前に、リクを連れてきていたので、試しに鹿にあててみた。

ものすごい勢いで吠え立てて、相手が身動きできないと見るや否や噛みついた。

少し前、散歩中に誤ってリードを放した隙に、リクは野良猫を追いかけて噛みついてしまった。
野良猫は無事だったけど(最終的にはリクが猫に鼻面を噛まれて情けない声を上げていた)、
どうやら野良猫を噛んだことで猟欲が開花してしまった感じがあった。

まさか野良猫相手に…。

散歩中、毎回見境なく野良猫に向かっていくようでは困るので、
どうしたものかと考えていたのだけど、
野良猫以上の喜びを感じられる標的に切り替えさせるしかないのかな。

山の中でのリクの動きや性質を観察していると、
足元犬での猪猟よりも、ミドルレンジで鹿を追い回してくる狩猟スタイルの方が良いのかもな、と考えていた。
ニオイを辿って必ず戻ってくるから、単独勢子オンリーでの鹿猟が可能かもしれない。

話が少し逸れてしまった。

ゆっくり牡鹿に近づいて片方の角をしっかり握り、剣鉈を取り出す。
リクの噛みつきによって鹿の動きはさらに封じられて、剣鉈を心臓に真っすぐ突き刺すことができた。

事切れた牡鹿を軽トラに乗せて運ぶ。

自宅に到着し、早速解体に取り掛かった。
この時は軽トラの荷台で解体したのだけど、やっぱり吊り下げられるようにしたい。
その方が圧倒的に綺麗に解体できるし、衛生的だからだ。早めに単菅パイプで組み立てよう。

【捌く】

まずは内臓を取り出す。腹膜に刃を入れ、腹腔内が見えると、熱を持った血液で満たされていた。
心臓に剣鉈を突き刺したから、多量の血液が流出していたのだ。放血が上手くいったという証拠だ。

内臓が姿を現す。有機体を目の前にしているはずなのに、とてもメカニカルなものを扱っているような感覚になる。それだけ内臓の構造というものは、体系的な機能美を有している。

食道、胃、小腸、大腸、肝臓、胆のう、膵臓、腎臓、それらを支える横隔膜、全体を包む腹腔という空間。

車のボンネットをがばっと開いて、ボディの内側の車の構造体が見えたときの、あの感覚。

例えるなら、それに最も近いのではないかと思う。

命に対して感じるような神秘性は、少なくとも解体のときにはほとんど抱いていないと思う。

この感覚は、躍動している獣が事切れて死体になった瞬間からじわりじわりとからだの中に芽生える。

今の今まで間違いなく生命(いのち)として捉えていた存在が、
死を迎えたそのときから死体→構造体→肉という認識の変化を遂げていく。

この感覚のグラデーションをつぶさに観察して、少しずつ言語化していきたい。

そうすると、なんとなくぼくが考える「命とは何か?」の答えが見えてきそうな気がしている。

解体は順調に進み、1時間程で枝肉までの処理を終えた。

このあと一晩冷蔵庫の中で寝かせて、お肉の水分を少し抜く工程をはさむ。

そこから骨を抜いて、精肉作業に入っていく。

罠でかなり暴れていたようなので肉焼けを心配していたけど、
お肉の状態はかなり良かった。美味しそうだ。