日々狩り旅【三重編】~子犬に会いに~

日々狩り旅【三重編】~子犬に会いに~
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二月の中頃に生まれたという子犬に会いに、三重の猟師Sさんを訪ねた。三重に来るのはもう三回目になるだろうか。子犬に会うという目的が第一ではあったのだけど、それ以上に行くたびに新しい学びや体験があって、今回も心を躍らせながら車を走らせた。ちなみに今回はずっと下道を使って移動した。今までは高速道路で時間短縮優先だったけど、最近高速を走るのがつまらなくなってきて、可能な限り下道を走ることにしている。今住んでいる長野から三重までは、山から海へと向かうことになるから、景色は様変わりするし、街中は街中でコンビニやチェーン店の勢力図の変遷が垣間見えて暇しない。あとは方言の境界とかもにわかに感じられるのもまた面白かったりする。なので、要所要所でコンビニに立ち寄った際は店員さんの言葉遣いをなんとなく気にしたりしている。

【今回も汽水域で】

目的の三重近郊に近づいて猟師さんにアポを取ると、「このあたりにいます」とグーグルマップの指定ポイントが送られてきた。確認すると漁港近くの海岸線。どうやらそのあたりで釣りをしているとのこと。「何を釣っているんだろうか」と想像しながら指定された場所へ向かう。初めて来たときは“鮎”だった。そのときも川が海へ流れ込む汽水域での漁だったので、今回も魚だろうか。

現場に到着し、あたりを探すとSさんの車があって、すぐ下の川岸にSさんがいた。竿を伸ばしてじっと何かの反応を見ている。「お久しぶりです」と声をかけ、近づいて「何を狙ってるんですか?」と聞くと“鮒釣り”をしているそう。なんでも東京でタイ料理のお店を経営しているシェフから汽水域に生息している鮒の注文が入ったのだとか。そんな話をしているうちに、水面に浮かべたウキにピクピクッとアタリがきた。Sさんがすばやく竿を引き上げるも、タイミングが合わなかったようでバレてしまった。小学生の頃に近くの溜め池で鮒釣りをした記憶があるけど、多分要領はそれと一緒だと思われる。「やってみる?」と聞かれたので、遠慮なくトライさせていただくことにした。餌はグルテン粉の練り餌。延べ竿、ウキ、重り、ハリスというシンプルな仕掛け。「釣りは鮒釣りに始まり鮒釣りに終わる」という格言があるぐらい、鮒釣りは釣りの原点らしい。その言葉の真髄は全く理解していないけども。鮒は餌にバクっと食いつくわけではなくて、水中に落とした練り餌の周囲に溶け出して漂う餌カスを吸い込むようなアタリをしてくる。だから渓流魚みたいな「食った!」という分かりやすいアタリの仕方ではない。実際にやってみて分かった。けっこうシビアだ。竿を投げて5分ほど経過しただろうか。

釣れた。
鮒釣りけっこう面白いかもしれない。春がちょうど産卵時期で、丸々と肥えた良型の鮒が釣れるそうだ。これをタイ料理で使うそうだが、一体どんな料理となって提供されるのだろうか。鮒料理と聞くと、滋賀県の“鮒ずし”ぐらいしか思い浮かばない。そもそも鮒を食べたことがないので、味の想像ができない。Sさんの話によると、かなり美味しいらしい。前回、前々回もそうだったが、ここに来ると、今まで“食べもの”として認識していなかったものが、普通に食べられるということを知り、そしてそれが美味しいことを知る。自分の中の常識を覆されるその瞬間が好きで、三重に来ている部分はけっこう大きい。

【出会い】

鮒釣りを切り上げて、Sさんのご自宅に到着すると、解体処理施設の脇の犬小屋から子犬二匹が飛び出してきた。よちよちした足取りで近寄ってくる。母親犬もいて、出てきた子犬たちは母親そっくりだ。子犬は三匹いるそうだが、毛色の同じ似たような姿形の二匹と、あともう一匹の姿が見えない。「もう一匹はマイペース。呼んでも来んと、小屋の中で寝とる。性格もあるし、他の二匹に比べて二日ほど発育が遅れてる感じ。」そうSさんは話されていた。二匹の子犬たちと戯れていると、三匹目の子犬もよちよちと外に出てきた。三匹目の子犬は他の二匹と毛色や模様が違っていた。母親犬とも違うから、父親犬からの遺伝なのだろうか。Sさんの言う通り、確かに、マイペースというか、おっとりしているというか、明らかに他の二匹とは性格が違うという印象を受けた。

1月に訪れた際にはまだ小さな子犬だった彼は、ちょっと見ない間に逞しい姿に成長していた。鳴き声も野太くなっていて別の犬かと思うほど。精悍な体つきと、地面をがっしりと捉える四肢がとても凛々しい。近寄ると人懐っこさは相変わらずで、あどけなさが垣間見える。これからどんな猟犬に育っていくのだろうか。

【海と山のご馳走】

その後、近くのスーパーに夕食の買い出しに向かった。さすが沿岸の町。魚が一尾丸ごとパック詰めされて並べられている。しかも激安である。内陸県民としては狂喜する光景だが、Sさんたちにとっては日常である。

この日に釣った鮒と、Sさん宅の水槽に入れられていた鯉を夕食の一品にするとのことで、捌いてくれた。魚の捌き方はまだまだ初心者なので、手順とか諸々をしっかり目と頭に焼き付けておく。鯉や鮒は細い中骨が多く、それを一本一本抜くのは至難の業なので、“骨切り”という作業を行う。確か鱧もそうだった覚えがある。

鯉の姿煮~中華風あんかけ~
鮒の刺身
ポルチーニ茸とカラスミとトリュフのパスタ
トリュフオムレツ

海(川?)の幸、山の幸。贅の限りを尽くした食卓だった。写真におさめた料理の食材はどれもこれもSさんが自らの手で獲った(採った)ものばかりだ。イタリア・フランス料理で高級食材として重宝されるポルチーニやトリュフも採取してきたものらしい。ポルチーニは《和名:ヤマドリダケ》といって、国内でも自生していることは知っていたけど、トリュフも自生しているということにまず驚く。“世界三大珍味”というラベルが、なんだかすごく遠い存在に思えてしまって、自分で採ってくることができるという感覚になかなか辿り着けない。都市部のレストランで高級食材として扱われる食材の多くはいわゆる天然のもので、それは地方にいる誰かが時間と労力をかけて手に入れたものだ。それを思うと、「今自分はスタート地点にいるのだな」と不思議な気持ちになる。Sさんや地元の人にとっても“珍しい食材”ではあるのかもしれないけど、“高級食材”という認識ではなさそうで(申し訳なくなってしまうぐらい贅沢に、ふんだんに使っていた)、これらの食材が“高級”になる境界って一体どこからだろうかと思ってしまう。

【海】

夕食後にSさんから「明日子犬連れてくか?」と聞かれるも、どの子犬を引き取ろうか、一日目はすぐに決められずに悩んでいた。毛色の異なる子犬が気になってはいた。単独単犬で山を一緒に歩きたいので、群れを好むのではなく、一匹でも物怖じしない性格であってほしい。マイペースであることはその素地である気がした。また、冒険心が強く、勇敢でありすぎると犬だけでのセルフハンティングに走ってしまうことも考えられる。主人と近い距離感で獲物を探すためには、ある意味少し神経質である方が良い。マイペースであることと矛盾するようであるけれど、要はコミュニケーションを取りながら猟に臨める関係性が必要だ。単犬でも自己の感覚と能力を発揮でき、なおかつそれを主人と共有しながら歩を進めてくれる猟犬が理想だ。ずっと観察していると、マイペースではあるけど、母親に甘えっぽくて、好奇心に身を任せて一人でずんずん進んで行くというような大胆さはなく、むしろ慎重さが目立つ。母親の近くをあまり離れようとしないのも、そういった性格の表れかと思われた。最終的にはこの子を譲り受けることに決め、そのことをSさんに伝えた。

「今回、子犬のことは心配していません。いい相棒になると思います。楽しんでください。」

帰宅後に送ったメッセージの返信にはそう書いてあった。

新しい家に来てからは、まだ戸惑いや不安があるようで、僕の姿が見えなくなるとかなり鳴く。とはいえ、登れなかった段差を急にひょいと上がれるようになっていたり、餌の食べ方が旺盛になったり、名前を呼ぶとすぐに反応して近寄ってくるようになったりと(オス犬で、名前は「カイ」と名付けた)、日に日に成長が見られる。名前の呼称への反応が良いことと、主人のあとをついてあまり離れないという性質は日々の成長と共に固まってきている。最初の観察で見立てた予想が多少は当たっていたのかと思うと嬉しくなる。3、4か月以降の自我が強くなる時期にどう接していくか、どう躾をしていくかがとても重要になる気がしている。犬は人のことを本当によく観察していて、その観察力は人が犬を見る以上だと感心するほどだ。自分と相対する人の上下関係なんかはすぐに見分ける。感情もしっかり読み取っているし。だから、リク(もう一匹の先輩犬)とカイには、ふつうに人に話しかけるみたいに、言葉で語りかけるようにしている。投げかけられた言葉や文脈の意味を理解はできないだろうけども、そこに乗っかている感情は読み取ってくれていると信じている。だから感情をストレートに表した嘘偽りない言葉を使う。「キミとどういう狩猟がしたいか」という話を長々とすることもある。

成長と言うと、カイが来てから、リクにも変化が見られる。今まで一匹でいたものだから、他の犬との接触やコミュニケーションはほとんどなかった。そこにきて、突然自分より一回りも二回りも小さな同居犬が来たから、「どう接していいものか…」と困り果てた表情をしていた。それが徐々に変わってきて、カイを傍に置いて一緒に寝る姿や、餌を食べているとカイが割り込んできてガツガツ食べ出し、リクが食べようとすると「俺のだ!」と言わんばかりに威嚇して、リクは「しょうがないな…」と自身の餌をカイに譲る、みたいな場面も見られる。なんだか人と一緒だな、とつくづく思う。カイとの出会いがリクにどう作用するのか、それもこれからの楽しみである。