今回も初めての山に行ってきました。
年明けに三重の猟師であるSさんから学んだいくつかのヒントを意識しての単独単犬猟。
気づきと発見がいくつもありました。
南向きの日当たりの良い山腹を進み、途中から稜線まで上がり、そのまま尾根沿いに下ってきました。
今回、意識した課題は具体的に二つ。
①風向きを読んで進むこと
②GPSに頼らずに犬との位置関係を把握すること
Sさんからの助言を早速実践してみました。
風向きに意識を向ける
今まで全く考えていなかったことです。
そもそも風を読む方法自体よく分かりませんでしたが、
木々や葉っぱが揺らめく向きを注意深く観察する、指を舐めて上にかざし風が吹いてくる方向を感じる(昔、父親から教わった覚えがあります)など、とりあえず自分なりに思いつく方法でやってみました。
正解なのか定かではないですが、Sさんも「自分の感覚を信じてやってみればいい」と言っておられましたので、ここは直観に従って。
風は東から吹いてきていました。稜線沿いに登り切ったあたりで、風向きが変わり強い北風が吹き荒れる場面がありましたが、それ以外はずっと東→西への風向きでした。
風向きを意識した歩き方に対し、猟犬の動向はどうだったかというと、
先へ先へと行ってしまう動きが以前と比較して少なかったのです。
猟犬の動きを観察していると、
周囲の気配を探るときは必ず立ち止まり鼻先や耳を風が吹いてくる方向に向けます。
今までもその行動は目にしていて、漠然とそうだろうとは考えていましたが、今回風向きを意識して歩いていたので確信しました。犬の持つ習性なのか、個体の癖なのかまでは判断できませんが。
「風向きを意識しながら歩く」ことがどういう意味なのかよく分からないかもしれませんが、
目の前に風の列がずらりと並んでいるようなイメージで猟犬と歩きました。
図で書くとこんな感じです。
写真右が山下で方角は南東(風が吹いてくる方向です)で、左が山の稜線側で方角は北西(風が吹き抜けていく方向)です。
猟犬と自分の進行方向に対し、垂直に風が右から左へと吹き抜けていきます。
すると、猟犬は下から吹き上げてくる風に乗ったニオイや気配に反応するので、
先に行ってしまうことはなく、
ニオイをキャッチすると右側の斜面下に向かって下っていく
↓
何もないと上がって戻ってくる
という動きの繰り返しでした。
おそらく今までは向かい風に対して正面からぶつかっていく歩き方をしていたので、
猟犬も山の奥から吹いてくる風に乗った獣のニオイをキャッチしてどんどん先へ先へと行ってしまっていたのでしょう。
GPSに依存しない
もう一つの課題。
猟犬との位置関係・距離感を把握するためにGPSに頼らないこと。
GPSを見ることで猟犬が今どこにいるのか一目で把握することができます。
一方で、「GPSがある限り猟犬が何処にいようと安心」という一種の油断が生まれます。
それは主人の感情や行動にも影響を及ぼしていて、
戻って来ないのならGPSを確認しながら迎えに行けばいいと考えます。
加えて、そのようなGPS依存から生まれる安易な安心感は、「お前が一緒にいてくれないと獲物は獲れないんだ」という猟犬の必要性と、自力で戻ってきたときの「戻ってきてくれてよかった」という心から湧く主人の安堵感を喪失させてしまいかねないのです。
感情を余すことなく猟犬に伝えることが、人犬一体の関係性を築く上では必要不可欠であることをSさんから教えてもらいました。
今回も、山に入ると猟犬だけで先に行ってしまう場面はありました。
が、そこでGPSを見るのをぐっとこらえて、周囲の音や気配に意識を向け、ゆっくり進みながら戻ってくるのを待ちました。
そして戻ってきたら、しっかりと褒めてやりました。
確かに、今までGPSを見ながら戻りを待っていたときには抱かなかった感情が自分の中にありました。
「よく戻ってきてくれた」
「寂しかったぞ」
「頼むからあまり遠くへ行くなよ」
という感情。
褒める際に、それらをできる限り表情や声色に出しました。
「なんだか、いつもより嬉しそうだ。気のせいだろうか…いや気のせいじゃない。」
そんなことを考えながら。
不思議なことに、その後は前述したように風が吹いてくる方向に何かを探りに行くことはあっても60~80メートルほど離れるとすぐに戻ってきました。
一度200メートルほど行ってしまう場面もあったかな。
それでもすんなりと戻ってきました。
そのたびに感情を込めて褒めてやる。
気のせいなどではなく、確かに猟犬はこちらの感情を読み取ってくれていました。
猟犬は歩きながら立ち止まって振り返ってはしきりにこちらの動向を気にしていましたし、
なにより今までにないくらい猟犬とのアイコンタクトの頻度が増えました。
これは間違いないことです。
自分でも驚きました。ここまで変わるのかと。
山に行くことが楽しくなった
「風向きを意識すること」と「GPSに頼らず猟犬と感情を通わすこと」。
この二つを実践してみて気が付いたことがあります。
それは、
「いかに今まで五感を使えていなかったか」
ということ。
風を肌で感じ、風が木々の間を抜ける音を聞く。
猟犬が行った先に目を凝らし、気配を感じようと耳を澄ます。
自然と五感が研ぎ澄まされていきます。
すると、今まで漠然としか感じていなかったものまで確かな実感を持ってキャッチするようになります。
「ここはスギの植林地でマツも生えてるな」
「日当たりの良いこのエリアは広葉樹。地質が岩石だから植林できなかったのか。」
「またスギの植林地エリアに入ったな」
GPSよりも遥かに高性能な感覚器官が人には備わっています。
機械に頼る分だけ、その機能は眠りについてしまう、ということに改めて気付かされました。
五感を使って山の中の情報をキャッチし、猟犬と感情を通わせ意思疎通をはかる。
やっと「猟犬と共に山を歩く」という感覚を感じられたかなと嬉しくなりました。
最後に編集した渉猟中の動画をのせておきます。
相変わらず猟果はありませんので見応えはないですが…
前回までの動画と見比べると犬の行動や距離感の違いを感じていただけるかと思います。