日々狩り旅【三重編(再)】③

日々狩り旅【三重編(再)】③
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Sさん宅で荷物などを下したのち、近くの温泉へ行くことに。

温泉の中でも、やはり猟犬の話。

猟犬の仕込みや訓練について話を伺った。

仕込み、とは平易に言うと、猟犬に猟欲を出させるための訓練のようなもので、
くくり罠や檻罠に掛かった鹿や猪に実際に猟犬をあててみる。

Sさんは特別な仕込みはこれといってしないそうで、
上記のように罠にかかった獣にあてるぐらいだそう。

それよりも猟犬と一緒に山に入って歩くことの方を重視すると話していた。

温泉から出ると、晩御飯を食べに行くことになった。

ちなみにこの日、焚き火大会でもう食べきれないというほどのご馳走をたらふく食べた直後からの、この晩御飯の流れである。

あ、温泉の前にSさんのご自宅でぜんざいもご馳走になっていたことを忘れてはいけない。
甘さ控えめの、優しい味付けのぜんざいだった。お腹はもうはちきれんばかりだったが、不思議とするすると喉を通った。

厳密に言うと、焚き火大会→ぜんざい→晩御飯というノンストップの流れである。

鳥焼き

このあたりは「鳥焼き」というものが名物だそうだ。「焼き鳥」ではない。

この辺一帯は養鶏農家さんが多くいるらしく、
若鶏やひね鶏(いわゆる廃鶏)をよく食べるらしい。

「味噌」と「塩」を選ぶことができて、味噌が主流らしい。焼き鳥で言うところの「タレ」味みたいな位置づけだ。

甘めの味噌で、焼くと香ばしい風味が鼻に届く。

軟骨、モモ肉、レバー、せせりをいただいた。

若鶏はぷりぷりの柔らかな肉質。新鮮さがうかがえる。

ひね鶏は弾力がしっかりあるので若鶏に比べると肉質は固いが、
肉自体の味の濃さとうま味はこちらの方が断然強い。これもまた美味。

ビールの大ジョッキも注文した。お酒は強い方ではないが、温泉からの鳥焼きならばビールしかないだろう、ということで有り難く。

鳥焼きがお腹に入ったのはアルコールアペリティフ効果のおかげだろうと思う。

業」として捉える

「みぃ」は猟場で亡くなってしまった。(前章はこちらから→日々狩り旅【三重編(再)】②

しかし、その後継者は既に存在していた。みぃと同じ彪毛の紀州犬の子犬。

名前は聞きそびれてしまった。みぃの直系の子というわけではないが、みぃも属していた血筋の系統から生まれた子だそうだ。

Sさんが育てた猟犬の血筋は全国に散らばっているらしい。

みぃのご親戚という感じだろうか。

行った先の土地でその系統が続いているのか、他の犬種の血筋と混ざっていくのか、それともそこで絶えてしまうのかはSさんも把握はしていないそうだ。

単独単犬猟において猪を獲る技術はいわば「業(わざ)」である、ということをSさんは言っていた。

「猟師の経験と技量」×「猟犬の経験と能力」という掛け合わせ。

猟師だけ、あるいは猟犬だけでは成立しない、ということだ。

またSさんの理想とする猟法に適う能力を有した猟犬、というのもそうそう出会えないと以前話されていた。

しかしながら、理想の猟法を実現するに足る能力を宿している可能性が高いかどうか、ということは判断できるらしい。

それは「遺伝」が鍵だった。

身体上の形質が血筋として後世に引き継がれるように(例えば親と子の毛色が同じ、祖父母と孫の顔が似ているなど)、能力もまた遺伝情報として引き継がれる(鼻が利く、目がいい、足が速いなど)。

単独単犬での猪猟への適正というのもまた、引き継がれる能力の一つだそうで、
Sさんが自身で育てた猟犬の系統を全国に散らしながら血筋として受け継がせているのも、
その能力を残すためだと思われる。

Sさんが育ててきた歴代の猟犬の中で、特に優れた能力を宿した個体の遺伝子を今現在まで続かせている、ということだ。

明言はしていなかったが、話の折々の情報をまとめてみると、その特に優れた能力を持った個体というのは彪毛の紀州犬だったということが理解できる。

つまり、身体上の形質がその個体と似ていること(彪毛であること以外にもおそらくもっと多くの判断要素があるのだと思われる)が、単独単犬での猪猟に適した能力を宿していることの証明であるそうだ。

写真の紀州犬の子犬の祖父が相当やり手の猟犬だったらしく、この子はその祖父と姿形が酷似している、と話していた。

そしてその祖父もSさんのところの系統の猟犬だ。

みぃが戦死した、と話していたときのSさんの淡々としているけど冷淡ではないあの口調の理由は、
猟犬を「一匹の犬という個体」として捉えているのではなく、「猟犬が脈々と受け継いできた業という全体性」で捉えているからなのではないかと感じた。

物質的な個体としてみるのではなく、精神的な、魂というのか、紡がれる糸というつながった存在として認識しているような。

的確な表現が難しい。

猟犬は単なる道具ではない。

相棒であり、猟師の一部であり、業である。

それは頭でも心でも理解できた。

一方で、Sさん自身の経験と技術もまた業の実現には必要不可欠な要素だ。

残念ながらこちらは猟犬のように遺伝情報で、というわけにはいかない。